涙空
……え?
声が出ない。
え。好きだった…?
以前から、という意味なんだろうか。…それとも違う意味?
心臓が騒がしい。慌ただしく震え出す。
それを押さえようにも、今は、自分の手が動かない。
空気が固まってしまったようだった。
――――けど。
「…冗談」
この空気に水を差したのは、郁也本人だった。
「…、え」
「笑うとこじゃないの。冗談だって」
「、…冗談?」
「…別に気にしなくていいんじゃないの。佳奈が聞いたらショック受けるだろ」
「…ショック…」
え、なにそれどういう意味ですか。
聞きたいのに、…郁也の指がそれを邪魔する。唇を固く結ぶ。
「ちょ、…郁也」
「なに」
「ゆ、ゆびびび、指」
「…頭とか大丈夫」
「だ、駄目だと思う」
郁也の指先が頬を滑る。撫でるように、するすると肌の上を優しく滑っていく。
どくん、どくん。
心臓が、さっきよりも激しく踊り狂う。
「…ゆ、指」
「…顔赤い」
「わかってるけど…!」