涙空
「勉強してんのか。最近は」
「最近も過去も一切しておりませんが」
「ちょっと来い。生徒を一発ぶん殴るくらいなら俺もクビにはならないから」
「なりますよね」
「最近隈無くなったな、お前」
「え」
教卓まで進めていた足を思わず停止させる。ぴたりと止まってしまう。
担任は頬杖をつきながら私に言う。
「…悩みがあるのは当たり前なんだよ。よくあることだろ」
「…先生も、悩み事とかあるんですか」
「…ある」
つい聞いてしまった。
でも答えを聞いてみて、すこし驚いた。
それはそれで意外だと思ったから。悩み事とは縁がなさそうに見える。この人は。
人は見かけによらないのか。本当だな。
「数学が史上最悪に出来ない俺の目前にいる女子生徒がいることとか目茶苦茶悩む」
「すみませんでした」
即座に頭を下げた。
私か。私があんたの悩みの種か。
ツッコミたいのを抑えて謝る。確かに正論なのは理解出来てるから。
「…そんな手のかかる生徒に宿題を出してあげるとかさ。最近の高校の先生は本当に気が利いて優しいだろ?」