涙空
「えっと、あれ、これなんだ…。え、なにこれ」
「数字だわ」
「いや数字なのはわかりますけどね。厳密に言えば数字の3ですけど…。え。なにこれ」
「だからこの公式使うんだって。さっきも言ったよ馬鹿野郎」
「馬鹿野郎とか生徒に向かって言わないでください」
確かに馬鹿野郎の内に入るけど。だけど教師がそれを言っちゃいけないと思う。
かりかりとシャーペンで数式を書きなぐる。『公式に当て嵌めろ』って言うけど、そう簡単に当て嵌まらないんだよ。
「…この【3】はどこに消えたんですか」
「計算したら消えるの」
「ええ…?」
消えないじゃん。
プリントに打たれた数字に文句を述べるけど消えない。どうにもこうにも消えてくれない。
とりあえず、公式と自分の書きなぐった数式を見比べて、またシャーペンを走らせた。
「…あ、消えた」
「出来たか?おせえよお前。これ何年の内容だと思ってんだ」
「一年生ですけども」
「それで苦戦してちゃ先がどうなるかわかったもんじゃねえよ」
もはや苦笑でもない。
はあ、困ったように溜息を吐き出す担任。
仕方ない、なんて言葉では片付かない私の成績の問題。
「…やっぱり、やばいんですかね」
「質問が今更すぎて答える気にもならない」
「ですよね」