涙空
「ていうかお前は口より手を動かせ、手を」
全く動いていない私のシャーペンを持った手を見遣って、呆れたように言った担任。
「お前、ここに俺が座ってる本来の目的忘れてるだろ」
「いや忘れてるわけじゃないですけど」
「俺はお前の相談に乗りに来たわけじゃねえぞ」
---------数学教えに来てんだ。
未だに表情はさっきのまま。呆れ顔のままだ。わかってますよそれぐらい。
半分も進んでいない数学のプリント。びっしりと打たれた数式に溜息を吐きだした。まあ溜息を吐きだしたいのは、このプリントをつくった担任の方だろうけど。
「先生」
「なんだよ。ギブアップか」
「いや、そうじゃなくて」
ていうかギブアップとか頼んでもさせてくれないでしょ。あなたそんなことさせてくれないでしょ。鬼畜だし。
そうじゃなくて。
「私が郁也に聞いたら、郁也は答えてくれるとおもいますか」
私が、彼に聞いたら。
―――――――――【教えて】
聞いたら。答えてくれるのだろうか。
「…お前が思ったように行動すればいいんじゃねえの」
…なぜか。その一言は、ずしりと重く私に圧し掛かった。