涙空
それは陽炎のようで
***
「ええ」
「露骨にめんどくさそうな顔しないでください」
「なんで俺なの」
「私の頭には夏樹君しか思い浮かばなかったんだけど」
翌日、5限目。
場所は静かな屋上。
昨日の一連を怜香に話したら。『夏樹に話してみたら?』と思ってたより軽く言われた。
だからこうして夏樹君を借りることは怜香には了承済みだ。
「だって郁也のことって言ったら夏樹君しかいないかと」
「え、なにそれ」
「そのまんまですけど」
夏樹君くらいしかいないんだよ。郁也のことを気兼ねなく聞けるのは。
まあ。だからって授業を夏樹君まで巻き込んでサボるのはいけなかったかもしれない。
「ごめんね。授業、サボらせちゃって」
授業をサボるとか、彼ならきっとしないだろう。
それなのにこんな状況をつくってしまった。なんて申し訳ないんだ。
そう思いながら頭を下げた私に、夏樹君は予想に反して軽く返した。
「いや、別にそれはいいけどさ」