涙空
「…なんで?」
「あいつ、結構ややこしいよ。見た目以上に」
「ややこしい?」
ややこしいって、あの郁也が?複雑でわかりづらい?
疑問を露にする私に、目前の夏樹君は変わらず掴み難い雰囲気を纏わせていた。
さらに疑問が深まっていく。
「…ややこしいよ。あいつ」
そう言った夏樹君の表情が複雑だったからか、またも飄飄と風が吹き抜けたからなのか。
上手く返す言葉が見つからなくて、唇を閉ざす。
そんな私を見て、夏樹君が言った。
「野崎に話せないのは、あいつが野崎に信頼してないとか、そういうのじゃない」
「……」
私の不安は、こんなにも相手にわかりやすく伝わってしまうものなんだろうか。
どんなに小さくても、どんなに大きくても。夏樹君はいとも簡単に見つけてしまうから、反応に困る。
「…そうなのかな」
なんて言えば良いのかわからなくて、曖昧に言葉を繋げてみる。
「…気にしすぎなんだって」