涙空
「……」
「要は郁也は野崎に言いづらいんだよ」
「…」
「誰だって大切な人には知られたくない部分ってあるだろ?」
夏樹君はなんてことない様子で言う。
それは確かに正論だ。頷ける。
私だって知られたくない部分はあった。【あのハナシ】。本当はずっと隠していてもいいと思っていたくらいだ。
だから、夏樹君の持論は間違ってないと思う。寧ろそれが普通なんだと思う。
―――――だけど。
郁也はどうなのだろう?
今の話を、郁也に照らし合わせてみたら、どうなの?ぴったり合ってるって、言える?
「…どうかな」
「え?」
善く善く考えてみれば、郁也にとって、自分がどのくらいの存在なのかもわからない。
予測したところで、それは【予測】という範囲内の答えにしかならないから、やはりわからない。
郁也にとって私は大切だと呼べる存在には含まれているのだろうか。
含まれてる?
だから郁也は私に話したがらないの?
でも、そんなことはない気がしてしまう。
下げていた視線を今し方私に【郁也にとって私は大切な存在】だと言ってくれた夏樹君に向けた。
「…夏樹君は、私を買い被り過ぎてるよ」