涙空



「…俺は郁也でも野崎でもないから、全部知ったようなことは言えないけどさ」

「…」

「野崎が思ってるよりは郁也は大切にしてると思うよ、野崎のこと」

「…」




その言葉を信じれば、後々傷付くのはわかってるのに。

だけど信じてしまいたいと、そう縋るように思っている自分もいる。


どうにも出来ないこの感情を、一体どこにぶつけろと言うのだろう。




「…夏樹君」

「なに?」

「…ありがとう」




ぽつり、静かな屋上で朽ちる自分のコトバ。

それは彼に届いたらしく「何に対しての?」そう聞かれた。




「…いろいろと」




一言じゃ表せないから、【いろいろ】という単語で括りつけた。


もう一度、ありがとう、と小さく呟く。


相談に乗ってくれたり、授業をサボッてまで笑ってくれたり、助けてくれたり。


ありがとう。




「あのさ」

「…ん?」




夏樹君が私に言う。

そこで丁度、授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。




「野崎と俺の関係はさ、仲の良い友達ってことで良いと思うよ」

「…え、そうなの?」

「女友達なんてそんなにいないしさ。…良かったね。野崎、俺の特別な存在になったじゃん」

「…そうだね」




そんないきなりの言葉に返す言葉が上手く見つからないから、

とりあえず。くすりと笑ってみた。


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