涙空
「郁也と野崎がどれくらいの関係なのかは知らないけどさ」
夏樹が言う。
教室の中は相変わらず騒がしい。耳を塞ぎたい衝動にかけられるが、それをするのも億劫だ。
「あんまり不安がらせると後々お前が困ることになるよ」
その目は揺らぐことなくこちらに向いていた。
短く息を吸って「わかってる」言葉を吐き出す。
「わかってんの?」
「…どうしようが、俺の勝手だろ」
「よく言う」
乾いた笑いが耳に届く。
反感を吐き出す夏樹に、苦笑さえも浮かばす気になれない。
「野崎、結構悩んでたけど。…ていうか思ったんだけどさ。野崎ってあれだな。ネガティブ体質」
「天性だから仕方ない」
「あれ天性なの?」
天性じゃなかったら他になにがあるんだよ。
そう思った。だけどそれを伝えるのも馬鹿馬鹿しくて口を閉ざす。
変わりに、他の言葉を口から零していく。
「…別に、佳奈に信用がないわけじゃない」
「…」
「…時期が来たら言う」
「いつだよ、それ」