涙空
「…まあ、最終的にはそれに繋がるけど」
「…」
所詮、教師だな。
最終的には一人の人間としてではなく、生徒として見る。
その瞳に写るのは、きっと紛れも無く【自分が背中を押さなければならない生徒】なのだろう。
ならばその生徒と俺は、教師という肩書を持つ人間からすれば同じ範疇なのだということも、理解出来る。
「…お前達には苦労して欲しくないんだよ。進路で苦しまないで欲しいのが本望だ」
「…そうですか」
それが本心なのか否かは聞かないでおくが、…逆に言うなら本心からそう言える人間は殆どいないと思う。
差し出された進路希望を書く用紙を少し荒々しく手で受け取る。
「…なあ」
「…なんですか」
「お前も大変なんだろうけど、…つーかお前もすごい趣味してるな」
――――あんな不器用な彼女、俺ならごめんだけどな。
無駄に大きな笑い声が室内に響く。尤も、担任だけの笑い声だったが。
「おっと、いけねえな。人の好みはそれぞれだしな」
「…」
「お前だったらもっと上等な女捕まえると思ったけどね。――――あ、そうだ」
上等、か。
【彼女】。そこの範疇に誰が入るのかはわかっていた。
「あいつ俺の数学の教え方じゃわからねえみたいなんだわ。お前、たまには教えてやってくれよ」
「…」
「毎日放課後に生徒に数学教えるってのも、結構重労働なんだわ」
けたけたと響く笑い声。
――――容量も俺に対しての態度も悪い生徒だから余計にな。
意地の悪い笑みを浮かべると、俺にそう言った。
――――ぐしゃり。真っ白な用紙を握り潰した。