涙空
「おいおい、そんな顔すんなよ」
担任は未だにだらけた口調で俺に言う。
それには返さずに、「もう用件無いですよね」吐き出した言葉。
「ああ、悪いな時間取って。お前もいろいろ忙しいだろ」
「…別に」
言いながら、背中を向けて会話に終止符を打つ。
いや、打ったつもりだった。
「なあ」
会話は終わってなかったらしい。なんだよ、まだ話したりないのか。
半ば呆れて振り返る。ただもうこの教室からは早く出て行きたい。
鞄を片手に、はやくここから立ち去りたいという意思表示だけしておく。
「お前はさ、あいつのどこに惚れたんだよ」
「…」
相変わらずの楽しそうな声が、いまは耳を劈くようで聞きたくない。
不愉快だ。眉を顰る。
担任の言った【あいつ】とは誰なのか。そんなの嫌でもわかる。
脳裏に浮かぶ、頭の空っぽな彼女の顔。
それを浮かべたときの自分の表情。それがどうなっていたのかは考えたくもない。
それを担任に見せるのも嫌で、空気を切り裂くように一言。
「…関係ないですから」
そう言ってやった。