涙空



「仕方ねえなあ。息抜きするか」

「息抜きって言ったって始めてから10分経ってないですよ」

「うるせえ。お前は俺の言うこと聞いてろや。主導権は誰にあると思ってんだ」

「職権濫用ですよね」




息抜きってあなた。始めてから10分しか経ってないってば。

息抜き云々の話じゃないよ。数学をやってよ、数学を。




「じゃあお前、【針】って10回言ってみ」

「え、なんで」

「言いから言えや」




強制ですか。

半ば呆れる私に、早くしろと急かしてくる目前の男。


…仕方ない。




「針針針針針針針針針針…」




言い終えた私にすかさず担任が問題を吹っかけてきた。




「アメリカの首都は?」




え、アメリカの首都?


いやいやそれくらいわかるっての。

アメリカの首都ね。首都は―――――、




「パリ」

「ぎゃはははははは!!おま、馬鹿だなお前!パリはフランスの首都だろうが!ぎゃはははは!」

「――――あ」

「おま、アメリカの首都はワシントンD.C.だよバーカ!」

「ああああああ!」




ひ、引っ掛かった…!

口をぱくぱくさせて「ズルっ!ズルい…!」言う私に担任は笑ったまま。




「あー、おもしれ。お前こうも簡単にひっかかるとは思わなかったわ」

「いやいやいや、今のは問題の出し方からしてズルいでしょ!」

「お前には訓練が足りてないな」

「なんの訓練ですか」


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