涙空
「でも目立つね、隈」
「そりゃファンデーション落としたから…」
「保健室行くか」
「え、え?でも郁也、授業あと5分で始まるんだけど…」
なぜ保健室?体調崩したの、郁也?
そう思ったけど、いつもと変わらない郁也がそこにはいる。
ちらりと、近くの空教室の時計を見遣れば、次の授業が始まる5分前で。
だけど郁也はそんなことをまるで気にしてない。
「保健室行く」
「え、でも授業」
「隈」
「…え」
そう呟いた郁也は、絞ったハンカチを私に返してきた。
「って、濡らしたハンカチ返されても」
「持ってて。その柄は俺には持てないから」
「…ですね」
また使うんだろうか、なんて思いながら花柄のハンカチを一瞥する。
確かに、これは郁也には持たせられないかもしれない。