夢でいいから~25歳差の物語
私は思わず大声を出した。


私の「わっ!」が乾いた部屋に響く。


驚いた理由は、誰もいないと思っていた教室に人がいたからという単純なものだった。


「水橋、何を驚いているの」


古典を担当する光森千沙子(みつもり ちさこ)先生(年齢不詳。見かけは30代後半)がダークブラウンのセミロングヘアーと白衣の裾を優雅に揺らしてクスクスと笑う。


私は胸が締め付けられる思いがした。


まだ青山先生への気持ちに気付いていなかった頃、私と三七子ちゃんはふざけて光森先生と青山先生を勝手に妄想上の夫婦にしてしまった。


2人とも独身だし、なんだかお似合いだったのだ。


そのせいか、彼女を見るとたまに苦しくなってしまう。


自分のせいなのに。


「いやー、誰もいないと思いまして」


私は光森先生に間抜けなところを見られた上に、笑われて恥ずかしくなったあまり、胸の苦しみをこの時だけは忘れた。


光森先生は150センチほどしか背丈がないので、158センチの私は自然と目線を下にすることになる。


彼女は微笑みながら言った。


「そう。それにしても早いね。偉い、偉い」


「あー、青山先生に会えると思うと、もうるんるんしちゃって…」


ここまで言ってはっとした。


「青山先生に会える」のを理由にするなんて、自分から秘密をもらすようなものではないか。


光森先生の大きな瞳が驚きで見開かれる。


バレた?


気まずい沈黙が部屋に濃霧のように立ち込める。


「水橋。あなた、まさか…」


私は思わず目をつぶる。


もうダメだ…!
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