夢でいいから~25歳差の物語
-翌朝-


「おはようございます、先生」


7時ちょうどに私は先生を起こす。


「ふあ…おはようございます」


今日は私の方が起きるのが早かった。


早朝に目が覚めてしまったのだ。


記憶を失ったのは先生のせいじゃないだろう。


だけど悲しくて考え込んでしまう。


自分を愛してくれる先生だけが好きだったはずじゃないのに。


先生のすべてが好きなはずなのに。


こんな私は先生の奥さんでいいのかな。


「流星さん、どうしました?」


その心配そうな視線も、夫としてではなくきっと旅のパートナーとしてのもの。


「いえ、それより電車は11時のいしかりライナーでしたね?」


「え?そうですが」


今日の電車を確認するふりをして話を反らす。


絶対に不自然だろうな。


11時ちょうどのいしかりライナーに揺られていても、6年ぶりの小樽の地に着いても頭の中は記憶を失う以前の先生ですき間なく埋め尽くされている。


愛されたい。


今、隣でデジカメを構えている男性(ひと)にもう一度。


以前のように。


眠っていた欲望が目を覚ます。


「先生と私の幸せ。2人で喜びや悲しみを分け合える。それが私の望む幸せだよ」


いつか母に言った言葉が頭の中で響くのに。


気付くと私は先生を呼んでいた。
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