夢でいいから~25歳差の物語
「こんなことを言っている暇があったらさっさと思い出せって話です。それはもちろんわかっています。でも…」


口は止まらない。


「妻1人幸せにしてやれない自分が、嫌なんです」


最後に出たのは心の真の叫びだった。


いくら記憶を失っているといっても、妻に迷惑ばかりかけて困らせるの自分が許せなかった。


バカだな。


こんなことを言ったらもっと困らせるだけなのに。


「ちょっと病院の敷地内を散策してきます。散歩くらいならいいと医師もおっしゃってましたし」


そう言って俺は病室を出た。


悲しそうな顔の流星さんを残して。


都合が悪くなると逃げる癖、直したい。


数十分後、病室に戻ると流星さんはすでにいなくなっていた。


帰っちゃったんだな。


なんとなく予感はしていたのに、曇ったため息がこぼれる。


憂いを抱えたまま、その日は終わった。


翌日、朝食を済ませ、その後問診など色々やっていて病室に戻ったのは昼下がりだった。


「?」


枕元にワインレッドの見慣れない箱が置いてある。


「なんだ、これ」


その箱を開けてみると、オルゴールらしく音楽が流れてきた。


これはシューベルトの魔王?


なぜだ?


そして中には真っ白な封筒とアザミの花が入っている。


よくはわからないが、嫌な予感がした。
< 153 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop