夢でいいから~25歳差の物語
その後、俺は精神的に不安定になりがちだった。


ふさぎ込むことも多くなり、ひどい時には普段ではありえないようなことをして精神安定剤を打たれたこともあった。


毎日のように来てくれていた流星さんも、ここ数日まったく来ない。


彼女ももう、俺のことなんか…。


そんな沈む気持ちをまぎらわすためにある昼下がり、病院の敷地内を散歩した。


秋。


見上げれば鮮やかな黄色がそよ風に揺れている。


銀杏(いちょう)だ。


辺りを見渡すと、車イスに乗った若い男性が若い女性と話をしていたり、小さな子供が年配の女性に手紙を渡していたりした。


みんな、隣に誰かいるのに。


俺は1人。


愛する女性(ひと)は自分のせいで失ってしまった。


遠いので両親もたまにしか来ない。


兄貴なんて…。


いや、やめるんだ。


これ以上、考えたらまた思い出してしまう。


「ん?」


病院内に戻ると、病室のドアが開いている。


不思議に思って覗いてみると、そこにいたのは。


「流星さん?」


失ったはずの妻だった。


彼女は俺の言葉には応じず、真っ青な顔で言う。


「先生、アザミの花言葉って」


ああ、オルゴールの話か。


「ええ。安心、厳格など色々あります。しかしその中には復讐という意味が」


その時だった。


またあの過去が頭をかすめた。


「やめろ」


「え?」


何も知らない流星さんは聞き返してくる。


「やめろ、俺じゃない!悪いのは兄貴だ!」


その直後、俺は気を失ってしまった。
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