夢でいいから~25歳差の物語
「先生」


「…」


あれから先生は何も答えない。


目すら合わせてくれない。


ただ恐い顔をしているだけだ。


風呂からあがっても、テレビを見ていても、ベッドに入っても、先生の背中ばかり見ている。


せっかく先生が退院して一緒の時間を過ごせると思ったのに。


いつもならこっちを向いて寝てくれる彼が、今夜は向こうを向いたきり。


もう「こっちを向いて」と言う勇気もなく、ただ先生のパジャマのネイビーカラーを眺めるしかない。


こんなに切なさが募る夜なんて、今までにあっただろうか。


「ごめんなさい…」


そう言っても先生は返事をしない。


寝ちゃったのかな。


寂しくて私はそっと後ろから先生を抱きしめてみた。


反応はない。


やはりもう寝てしまったのか。


そう思った時、先生の腕がすっと動いたと思うと、私の手をそっと握った。


「つまらない意地は張るものではないですね。ごめんなさい、嫌なことを思い出して八つ当たりしていました」


「いや、いいんですよ」


私は嬉しくなってその一言しか出ない。


「流星さん」


「はい」


「俺にこれ以上関わるときっと、オルゴールの件以上にひどいことに巻き込まれてしまうかもしれません。それでもあなたは俺の隣にいてくれますか?」


なんて切なげな声だろう。


胸が苦しい。


「当たり前じゃないですか。あなたは私が守ります」


迷わずそう言った。


これから何が起こるかわからなくて怖いが、何があっても先生の隣にいるつもりだ。


たとえ…信頼していた人に銃口を向けられようとも。
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