夢でいいから~25歳差の物語
「そうですよ」


まさか今度こそ記憶を取り戻したの?


期待を込めて先生を見つめた。


「…ダメだ、思い出そうとしたんですけどやはり思い出せません」


本当に残念そうに頭を抱えている。


「仕方ないですよ。無理をせず、焦らずにゆっくり思い出して下さい」


そうだ、私が水橋流星であったことはすでに先生が記憶を失ったばかりの時、教えていたんだっけ。


自分が勝手に期待しただけであって、先生のせいではないのに落胆し、なんとなく道行く人達を眺める。


先生用のウーロン茶と一緒に買った私のウーロン茶は、手の温度と春の気温ですでにぬるくなっていた。


すでに日は傾き、先生の白いワイシャツは薄いオレンジに染まっている。


向かい側の青いベンチはペンキがはげかかって水色になっていた。


「もう夕暮れですし、帰りましょう」


先生はそう言ってすっと立ち上がった。


「はい」


私も同じように立ち上がる。


先生の漆黒の髪はそよ風にさらさらとなびき、夕暮れの光を浴びてラメを振りかけたようにきらめいていた。


そんな先生はふいに言う。


「前から気になっていたんです」


「何がですか?」


「なぜ、あなたはこんな俺の隣に当たり前のようにいてくれるんですか?」
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