夢でいいから~25歳差の物語
「あ、先生」


私は反射的に手紙を後ろ手に隠す。


「どうしたんだ?何かあったのか?」


「いえ、それより先生の方こそどうしたんです?」


「ちょっと忘れ物をな」


ふっと微笑するその顔には大人の魅力が上品に漂っていた。


ちょっとした微笑みすらこんなに魅力的だなんて。


ますます青山皐示という人間の虜になってしまう。


って、朝からなんてことを考えているんだか。


「なぁ、お前…」


「何でもないですよ、何でも」


「…」


怪訝そうな顔の先生だが、私はとっさにぎこちない作り笑いでごまかす。


「何でもないならいいんだが」


そうクールに言って先生は家の中に消えていった。


それを見届けてから私は小さく、曇ったため息をこぼす。


先生に嘘をついてしまった。


しかし、だからといって本当のことは言えない。


自責し、嘆く先生の顔が目に浮かんでしまうから。


先生が出かけてから、私だけでこっそり警察に話して解決してもらってしまおうかな。


そんなことを考えて先生の後を追って家の中に入っていった。


この時の私は知らなかった。


先生がこの時の私の態度を不審に思っていたことを。


そして、このことが疑惑を抱くきっかけとなってしまったことを…。
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