夢でいいから~25歳差の物語
Secret29 魔王が姿を現す夏の夜
外では、セミが時間の経過を嫌がるように声をしぼり出して鳴いている。


私はあれから数日すると酸素マスクも点滴も必要はなくなったが、傷はまだ完治していないので病室から外を眺める日が続いていた。


あの指輪はどうなっただろう。


きっと川の水に洗われ、川底の石に傷をつけられてしまっているだろう。


時計を見るとまだ午前11時過ぎ。


先生は毎日のようにお見舞いに来てくれるが、今日は課外をやっているため、夕方頃にならないと来れないそうだ。


医師の軽い問診も終わって退屈な昼前。


近くの市民プールからだろうか、子供達のわぁ、というにぎやかな声が聞こえた。


なんとなくカレンダーを見る。


8月8日。


誕生日、8月1日の前日に家を飛び出し、目が覚めたのが8月3日。


つまり24歳の誕生日は、この病院で気絶したまま過ごしたわけか。


あーあ、先生と2人きりでロマンチックな誕生日にしたかったのに。


もっとも、あの時はどこかギクシャクしていたから無理だったかな。


でも今は仲直りしたしなぁ。


まぁ、1週間も経ってしまったことだし来年に期待しよう。


来年といえば私は25歳。


先生は50歳。


彼を知ったのは私が17歳になる春で、先生本人は42歳になる年だったから知り合ってもう7年経ったんだ。


そして「いやぁ、早いことだ」と妙な感心をしてしまうのだった。
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