夢でいいから~25歳差の物語
「はぁ…」


それからしばらくした後、私は無事に退院したが先生への疑いはいまだに晴れていなかった。


むしろ疑えば疑うほど、先生が魔王に思える。


言動、行動の1つ1つが魔王と関連しているように考えてしまう。


たとえば、眠れない夜に先生がいきなり起き出すと、あの入院していた夜のように私を殺そうとするのではという妄想を抱いてしまうのだ。


私はどうしてしまったんだろう。


頭の中は常に疑惑が渦巻く。


バイトしている時も、友達と話している時も、先生と食事している時も。


いくら顔に出さなくてもバレてしまうものなのか、ある休日の夕食中、先生が言った。


「最近、何かあったのか?」


「え?」


危うく手にしていた箸を落としそうになったが、なんとか落とさずに済んだ。


「なんかお前、様子が変じゃないか?」


「いや、全然」


本当はこの疑問に白黒つけてすっきりしたい。


また以前のように先生と笑い合いたいとは思う。


だけど言えない。


もし先生が魔王だったら。


その後のことを考えると、今はまだ幸せなのかもしれない。


だから言えないんだ。


この目で真実を確かめるまでは。


ごめんなさい。


疑いたくないのに疑っている自分が私の中からいなくなるまで待って。


そんな思いは口に出せないまま、その日は終わっていった。
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