夢でいいから~25歳差の物語
「ば、バカ!何言ってんだ」


この時は部屋に誰もいなかったから良かったものの、誰かいたらどうしてくれるんだ。


「先生、本当につまらないですね」


あ、また膨れっ面が復活した。


「教師をからかわないで下さい」


「からかってなんかいません。あたし、本当に本気なんです」


その目は真剣以外の何物でもなくて、視線をいたずらに反らすことが出来なかった。


「お前はどうして俺が好きなんだ?」


だって俺は別にいい人なんかじゃない。


授業だって堅苦しいし、過度に他人に心を開かないようにしているから冷たい人間だと勘違いされることもある。


ましてや教師である俺が生徒の気持ちを受け入れるわけにはいかない。


いくらシャープペンシルの芯みたいにまっすぐな気持ちでも。


「先生はあたしがひどいことを言った時も、怒らないで普通に接してくれた。泣いた時も、優しくしてくれた。他の先生や生徒と話している時、いつも笑顔だった。それに…」


「それに?」


「ちょっとカッコいいかなって」


俺は小さく笑う。


カッコいい云々は置いておいて、矢野がこんな俺をちゃんと見てくれていたことが嬉しかった。


こんな何の取り柄もないだろう俺を。
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