夢でいいから~25歳差の物語
わざとゆっくり走ったせいか私はすぐに追いつかれ、先生に後ろから抱きしめられる形になる。


「もう離さない。俺達はずっと一緒だ」


私は嬉しさのあまりニッと笑ってから、ふと思いついた疑問を口にした。


「先生、人生って何かな?」


「え?」


「美綺さん、言っていた。「なぜならこの8年間、それだけを考えて生きてきたからです。それだけがあたしの生きる糧だったんです」とか「でもいいんです。あたしは復讐のためにここまで生きてきました」とかって」


「ああ」


自分が病気で無理しちゃいけないってお医者さんにも言われていたにも関わらず、大切な人のために復讐していた。たった1回の限りある人生を復讐に使ったんだ。病気に蝕まれていたのになんでそこまで…」


「なんだろうな。30年近く学校の教師をやってきたが、難しい質問だ。でもこれを100人に聞いたらきっと100通りの答えが返ってくるような気がするな。だからきっと正解なんてない」


先生は遠くを見るような目をしていた。


「そうかもしれないね」


私はうなずく。


「家族を思う気持ち、それは時に人の心を激しく掻き立てる…」


そう言う先生の目はなんだか寂しげだった。


まるで遠い時間をさまよっているみたいだった。


お兄さんのことを考えているのかな。
< 253 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop