夢でいいから~25歳差の物語
「ね、母さん。見た?私が指された問題、ちゃんと解けていたでしょ」


授業参観が終わると、満面の笑みで流星が話しかけてきた。


「そうね。偉いわ。ごほうびに今日のランチはファミレスでも行こうか」


「おー、久々だなぁ」


そんな彼女の笑顔を見て思い出す。


青山先生。


あの人は生物を教えているって言っていた。


「流星」


「ん?」


「生物ってやってる?」


「生物は2年生からだよ」


「そう」


自分でも明らかに落胆していたのがわかった。


「生物がどうかした?」


「なんでもないわ」


言えるわけがない、本当のことなんて。


自分でもこんな気持ち、久しぶりで戸惑っている。


でも、あの人の声を、顔を思い出すだけで胸が高鳴るの。


わたしは36年間、1人の女として生きてきた。


その間に得た様々な経験に基づき、脳が1つの結論を出す。


好きになってしまったんだ、彼を。


あの一瞬で、彼のすべてを知りたいという欲望を抱いてしまったんだ。


「睡蓮。私は君が好きなんだ!」


性格の不一致で離婚を決意し、夫だった健一郎さんに離婚届を突き出した時に言われたセリフを思い出す。


ごめんなさい、健一郎さん。


わたし、すっかりあの人に奪われてしまったの。


恋なんて忘れていたはずのわたしが一目惚れしてしまったのよ。
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