夢でいいから~25歳差の物語
「はぁ…」


それからまた数日経った。


黄昏時になって、わたしは行きつけのスーパーに夕食の材料の買い出しに来ていたが、頭の中はやっぱり青山先生ばかり。


彼のことしか考えることを許さない霊に取り憑かれたような感覚だった。


ふと見るとワイン売り場が目につく。


久々に飲みたいという衝動に駆られる。


酔いに溺れてしまえば青山先生のことも忘れられるかもしれない。


そう思って赤ワインに手を伸ばした時だった。


「あ」


わたしの他にもう1人、ワインに手を伸ばしていた人がいた。


「す、すみません!」


わたしは慌てて頭を下げた。


「いいえ、お気になさらないで下さい」


慌てて頭を下げると相手はそう言ってくれた。


なんかこんな場面、前にもあったような。


そう思いながら顔を上げてわたしはあっと声を出しそうになった。


「青山先生…」


「あなたは確かこの間の」


青山先生はそう言って大人の落ち着いた微笑みを見せる。


写真を撮っておかなかったことが悔まれるほど、美しくてクラクラしそう。


「あ、あの時は本当にすみませんでした」


「いいんですよ」


どうしてだろう。


会いたくて会いたくて。


ずっと叶えたかった願いが叶ったからなのか。


なぜかわたしの目からは涙が溢れていた。
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