夢でいいから~25歳差の物語
Secret4 父親
-4月30日-


木はすでに華やかな桜色の花から、鮮やかな緑の葉に衣替えをした時期。


私は3年生になっていた。


先生とはあれからまったく口を聞いていない。


その時から今日でちょうど1ヶ月。


今は生物の授業中。


先生は相変わらずだった。


まるで何もなかった時に戻されたみたいだ。


「…では水橋。これはなんだ?」


いきなり指名されて戸惑った。


全然聞いてなかったので今、何を聞かれているか見当もつかない。


「…すいません。聞いてませんでした」


「ちゃんと聞いてろよ。いいか、熟したリンゴと未成熟なバナナを同じ容器に入れるとバナナが早く成熟した。これはリンゴから何が放出されたからだ?」


「エチレン」


「エチレンだよな」


ねぇ、先生。


どうして私が授業を聞いてないと言った時、怒らないで切ない顔をしたの?


私なんかどうでもいいから怒らないの?


私は少し悲しくなって、黒板にサラサラと手から文字を生み出していく先生の背中を見つめていた。


その時だった。


バタバタッ。


ドタ、ガタ。


ガシャーン!


「?」


やけに教室の外が騒がしい。


「キャー!!」


「やめろ!」


「警察を呼ぶぞ」


「なんだ、お前らは!」


人の声も聞こえた。


しかし、どのセリフも普通の会話のものとは思えない。


一体なんなんだ?


先生も不審に思ったらしく、ドアを開けて廊下を見る。


その顔がスーッと青ざめていくのがはっきりと見えた。


そしていつもはクールな彼が私達に向かってこう叫んだ。


「お前ら、逃げろ!!」
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