夢でいいから~25歳差の物語
夏休み前日。


外ではミーン、ミーンとセミがやかましく鳴いている。


「では、明日から夏休みだ。だからといって気を抜かず、規則正しい生活習慣を心がけるように。補習を申し込んだ者はちゃんと参加し、学力向上につなげてくれ」


担任の先生が長々と話をするが、まともに聞いてない生徒の方が多い。


あたしもぼんやり外を眺める。


薄汚れた白いペンキを流し込んだかのように、白とは言い難い色の雲が空をすっかり覆っている。


そのせいだろうか、なんだか圧迫感を感じるのは。


「では、これにて解散!」


話を聞いてなかったはずの生徒がまるでこのセリフがスイッチになったかのように立ち上がり、「さいならー」と口々に言って帰っていく。


1つのことをきっかけにみんなが同じことをするのがロボットみたいで、少し笑ってしまった。


「美綺~」


遥がぱたぱたとあたしのところにやってくる。


「アタシは帰るけど、美綺は?」


「図書室で勉強してから帰るよ」


「わかった。じゃ、また9月1日にね」


「バイバイ」


教室に1人残されるあたし。


「勉強、か」


確かにあたしがこれからやろうとしているのは勉強だ。


しかし、学力の向上のためとかそういう理由じゃない。


あたしは秘密を持つ優越感からくる笑いを浮かべてから、図書室へ駆け出した。
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