夢でいいから~25歳差の物語
パチパチと温かい拍手に迎えられながら壇上の青山先生は立ち上がり、マイクの前に立った。


「えー、早いもので私がこの学校に来て10年が経ちました」


あっ、いつも俺って言うのに今日は私って言ってる。


「思い出はたくさんあります。数え切れないくらいの良い生徒とも出会いました」


その良い生徒の中にあたしも含まれていますように。


あたしはそっと願った。


「夏休みの課外に欠かさず出席してくれていた生徒。こんな自分を先生として慕ってくれる生徒。先生は悪くないって言ってくれた生徒」


「…」


まさか全部、あたしのこと?


先生の課外は誰かしら欠席している中、無遅刻無欠席を最後まで頑張ってキープした。


あたしが先生を慕っていたのは言うまでもないし。


入院中、先生に謝られた時に「謝らなくていいですよ。先生は悪くないんですから」と言ったのは今でも覚えている。


そうは言いながらも、本当は悲しかったんだけどね。


「そんな生徒に出逢えて私は本当に、本当に幸せです」


先生…。


「ありがとうございました」


彼が深々とお辞儀をすると、会場は瞬く間に拍手に包まれた。


その時の先生の切なげな顔は、頭にこびりついてしばらく離れなかった。
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