夢でいいから~25歳差の物語
自意識過剰だなんて言われたら、それまでかもしれない。


真面目に課外に出た人はあたしだけじゃないだろうし、青山先生を慕っている生徒だってたくさんいる。


先生は悪くないって言ったのも、別の人という可能性は否定出来ない。


でも…。


「ちょっと美綺、もうホームルーム終わってるよ」


遥の声がふいに飛んでくる。


気付くと、教室にはあたしと遥だけになっていた。


驚いた、いつのまに式が終わったんだろう。


「美綺」


「ん?」


「青山先生の異動、悲しいよね?」


一瞬、ドキッとしたが冷静を装う。


「うん。だって青山先生のおかげで理科が大好きになったのにいなくなっちゃったんだもん」


「そうじゃなくてさ」


苦笑しながら返事したのに、遥の表情はいつになく真剣だ。


「美綺が大好きになったのは理科なんかじゃなくて、青山先生の方だったんじゃないの?」




「さっき青山先生に会ったんだけどさ、源氏って呟いてたよ。良かったね!愛する青山先生に気にかけてもらって」




式の前の遥のセリフが蘇る。


遥はきっとどこかで気付いていたのかもしれない。


昼休みや放課後に突然いなくなるあたしを、不審に思って探してくれていたのかもしれない。


そうだよ。


あたしが好きになったのは理科じゃない。


「青山先生…」


泣きたくなんかないのに、涙腺が緩む。


遥がポンポンと肩を優しく叩く。


それがスイッチになったかのように、涙がまるで洪水のごとく溢れた。


泣き虫のあたしのバカ。


だけど川と同じで、一度氾濫したらなかなか止まらない。


「好きだった。ずっと大好きだった…」


「うん」


あたしが泣き止むまで遥は隣にいてくれた。
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