夢でいいから~25歳差の物語
一瞬、間が空いた。


「あ、あぁ。机の上にあるな」


「悪いんだけど届けてくれない?」


ちなみに私はバイト先を、大学を卒業する時に飲食店からコンビニに変えたのだった。


「わかった。すぐ行く」


「ありがとう」


電話を切ってから私はコンビニに戻った。


友里さんは今日は来ない。


非番だったはずだ。


よって先生と顔を合わせることもないはず。


そんなふうにたかをくくっていた。


しばらくして、見覚えのある車が駐車場にとまったのが見えた。


「あっ、先生」


「ほら」


先生は車から出るなりケータイを差し出す。


「ありがとう。ごめんね、先生、休みなのに」


「気にするなよ」


先生は微笑んだ。


「先生のそんな優しいところ、大好き」


「ばっ、やめろ。人が見ているぞ」


大好きと言っただけなのに、他人の視線を気にする先生。


しかし朝だからか、道を歩いている人も通り過ぎる車もかなり少なかった。


「気にするほど、人なんていないじゃん」


「まぁ、そうだけど」


先生は決まりが悪そうな顔。


そんなに妻といるのが恥ずかしいのかしら。


失礼しちゃう。


なんだかそんな顔を見ていたら、いたずらしたくなった。


よーし。


「先生」


「ん?」


「なんならここでキスしちゃおうか」


「お、お前な!」


「いいから」


私は背伸びして腕を先生の肩に回し、唇を重ねた。


しばらくそうしていると、あんなに恥ずかしがっていた先生に火がついたらしく、体が細長い腕にくるまれた。


優しい温もりに包まれる。


まるでまわりの時間が止まったかのように、頭は何も考えられない。
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