夢でいいから~25歳差の物語
その後、私と先生はホテルの食事レベルでやたらに豪華な朝食(清川家にとっては「いつも通り」だそうだが)をごちそうになってから清川邸を辞した。


友里さんの車で家まで送ってもらったのだが、彼女は最後まで申し訳なさそうな顔だった。


「あの人は青山謙逸さんという十字架を一生背負って生きていかなければならないのかな」


私は去ってゆく車を見送りながら呟く。


「あの人はなにも悪くないのにな」


先生の声には申し訳なさが込められていた。


16年。


友里さんが先生のお兄さんを想い、同時に苦しみ続けた年月。


そしてこれからも彼女の葛藤は続くのだろう。


「私達には出来ないのかな。その十字架を下ろさせること」


「どうだろう。でも十字架とまではいかないとしても、誰でもなにかしらの苦しみを抱えているんじゃないかな」


先生は答えになっていないことを言って目を伏せる。


そういえば、美綺さんの事件まで先生の過去を知らなかった。


まさかあんなに壮絶な過去を持っていたことも知らず、ずっと隣にいた。


「皆、苦しみを抱えている、かぁ」


「人を殺したことは死んでも償えない。残された人の痛みは決して癒えない」


友里さんのセリフを思い出す。


その言葉と同じように、彼女の心の傷も癒えないのだろうか。


まわりの人達が救いの手を差しのべることは出来ないの?
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