夢でいいから~25歳差の物語
「自分がわからないんだ」


先生は突然言った。


「確かに俺は両親を憎んでいた。だから本当は生みの親ではないけど親父達を自分の肉親のように慕って、いっそ彼らが本当の親だと思おうとした」


私は無言で頷く。


「だが、忘れられるわけがなかった。たとえたったの10年しか一緒にいなくたってな」


「…」


「遊んでる親子を見かけた時、授業参観の時、ホームドラマを見た時、1人になって寂しい時。親について考えた時はたくさんあった」


お義父さん達は真剣な表情で先生の言葉を待っていた。


「そして今回の手紙を見つけて心が揺らいだ」


もしかしたら本当の両親が生きているかもしれない、もう一度会えるかもしれないという期待。


それが先生の胸を掠めたのだろう。


「会いたいかって聞かれたら正直、半々だ。恨めしくて顔も見たくない。その一方で、もう過去のことは忘れて昔みたいに話したい。今の気持ちはすごく複雑だ。でも、1つだけ思ったことがある」


「?」


「どんなに忌み嫌っていても消せないんだよな、親子の絆って」


先生は微笑すら浮かべている。


そうか。


どんなことがあっても自分を産んでくれた母親、そして父親はこの世に1人だけ。


つらい事件をきっかけに離ればなれになっても、40年の年月が流れてしまっても何の縁か、こうして再び青山家の親子は交わろうとしている。


私は何も言わなかった。


長い長い沈黙の後、やがてお義父さんが言った。


「今まで黙っていて、すまなかった。皐示」
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