夢でいいから~25歳差の物語
「妹の紅葉達にも住所はずっと知らせないつもりだった。だが数年前、街で偶然会ってしまい、問い詰められた俺は白状した」


だからお義母さん…いいえ、紅葉さん達はこの住所を教えることが出来たんだ。


「なんだよ」


それまで黙って聞いていた先生が口を開いた。


「そんなに前から俺のこと支えてくれてたんなら言ってくれれば良かったのに」


「皐示…」


「心中に失敗した時、戻ってきてくれれば良かったのに。おふく…いや、叔母達も本当のことを言ってくれたら恨まずに済んだのに」


「すまない。紅葉達には俺が手紙で口止めした。お前に余計な心配はさせたくなかった。こんな親は忘れてもっと違う人生を歩いてほしかったんだ」


先生はぶんぶんと首を振った。


「忘れられるわけがない。地獄の日々の最中に小学生だった俺を置いていなくなったり、久しぶりに会ったと思えば都合のいいことばかり並べたり」


その言葉に、章嘉さんが苦しそうにまた頭を下げる。


「なのになんで恨みきれないんだろう」


「?!」


驚いたような顔を上げる実の父親に、息子はふっと笑う。


「行方をくらましたのも、勝手に死のうとしたのも、陰でこそこそして今の今まで俺に会おうとしなかったのも憎い。それは確かだ」


「ああ」


「だけどそれでも今、会うことを拒否しなかった。真実もちゃんと話してくれた。だから…俺はあなた達を許したい。もう恨むのも疲れた。憎しみからは憎しみしか生まれない。そんなの悲しい」


先生は涙を流しながら続ける。


「俺、やり直したいんだ。親子関係を、もう一度。40年前のように」


章嘉さんは感慨深げに頷き、楓さんは涙で目を潤ませていた。
< 360 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop