夢でいいから~25歳差の物語
「ったく、誰かさんが朝っぱらから騒いでいるから寝不足だぜ」


飛行機の中で鹿沢くんは不機嫌そうに、本日8回目のあくびをする。


「ごめんね。でも安美があんなことをするから…」


陸はしおらしく謝った後、さりげなく安美に責任を転嫁した。


「あんなものに引っかかる人なんて陸だけよ。おっかしい」


安美は半ば呆れ気味、半ば苦笑気味に言った。


そう、あの変な笑い声は安美のセリフだったのだ。


最初はまさかと思ったが、さすがにおばけだとは思わなかった。


っていうか、大学生にもなって「おばけだー!」なんて叫ぶ人、初めて見たな。


私が1人で苦笑していると客室乗務員の人が話しかけてきた。


飲み物の注文を受けにやって来たようだ。


鹿沢くんはピーチジュース、陸は本日のおすすめのコーヒー、安美はこれまた本日のおすすめというパインジュース、私はコンソメスープを頼んだ。


「っていうか、ショウスケ。男のくせにピーチジュースはないでしょー」


安美がからかう。


「そんなの個人の自由だろ。余計なお世話だ」


鹿沢くんはふてくされたような顔で、紙コップに入ったピーチジュースをイッキ飲みしてしまった。


そんなやり取りの横で、また気圧で耳をやられた私は痛みをこらえつつコンソメスープを飲み、カバンのすき間を眺める。


そのすき間からはスープカレーや、ハスカップの形をした飾りが付いたストラップや、ジンギスカンキャラメルのパッケージが見え隠れしていた。


そんなものを眺めても、痛みは癒えるものじゃないのはよくわかっているのだけど。


そんなこんなで空港についた頃は修学旅行の時と同じように、まるで魂を抜かれたかのようにふらふらしながら飛行機を降りるのだった。
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