夢でいいから~25歳差の物語
-自宅-


カギを開けて中に入ると誰もいなかった。


1人暮らしだから当たり前だが。


さっきまで友達といたのが嘘みたいだと思いながら背負っていた荷物達をドサドサと床に下ろしてふと顔を上げると、小さな白いテーブルの上に思わず目が行く。


テーブルの上にある木の色を活かした小さなフォトフレームの中には、修学旅行の時に撮った青山先生がいた。


忘れようと思っても、わざと目立つ場所に置いてしまう。


忘れられない。


それは心のどこかに、忘れたくないという気持ちがあるからかな。


明日、実家に行くけど会いたくないなぁ。


顔を見てしまったら思いが溢れ出してきてしまいそうで。


泣いてしまいそうで。


笑顔を思い出すだけで息苦しくなるのに。


でも2年間も実の母親と顔を合わせていないのも、どうなんだって感じだし。


仕方ないかな。


「水橋」


私の名前を呼ぶ声が頭の中で響く。


首を振ってその声をかき消そうとする私に追い討ちをかけるように、先生の笑顔がよみがえる。


ダメだよ、私。


思い出に恋しちゃダメだよ。


そう心の中で自分に言っても抑えられない。


心の中の先生はじわじわと私を侵蝕していく。


本当につらいのに先生は母しか見ていない。


もどかしくてやりきれない気持ちになる。


「運命」か…。


いつか三七子ちゃんについた嘘が頭をよぎる。


こうなることがさだめなら出会わなければよかったのに。


こんなにも好きなのに想いが届かないなんて。


私は沈んだ気持ちで明日の準備を始めた。
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