夢でいいから~25歳差の物語
「あの、先生」


先生は初めて私の存在に気付いたらしく、はっとした顔でこちらを見た。


「ああ…」


先生はそう言うのが精一杯のようだ。


「突然押しかけてきてこんなこと聞きますけど許して下さい。母と離婚したんですよね?1ヶ月前に」


「…そうだ」


そう言う先生の顔はとてもつらそうだ。


目を伏せ、唇を噛みしめている。


いかに先生が母を愛していたか、わかるような気がした。


「ところで、お前は何をしに来たんだ?睡蓮さんの言葉でも疑って俺に聞きにきたのか?」


強気な口調で聞いてくる。


あれ?


そういえば私は青山先生になぜ会いに来たんだろう。


母の「離婚した」という事実を確かめに来たわけではない。


まったく疑っていなかったから。


それじゃ、どうして?


自分でもわからなかった。


代わりにこんな言葉が私の口をついて出た。


「先生、そんなに強気な態度ですけど悲しくないんですか?」


「な…にを?」


先生の表情が若干揺らいだように見えた。


静かな水面に小さな石を投げた時、波紋が広がるように。


「母と別れて悲しくないんですか?」


「別に」


彼はそっけなく言い、私に背を向けた。


しかし、その広い肩は小刻みに震えている。


「先生、やっぱり…」


「だから違うって」


先生は頑なに否定するが、私はどうしても信じられなかった。


「そんな、違いませ…」


「もう嫌なんだよ!」


「…!」


感情をむき出しにした先生を見るのは2回目だった。
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