夢でいいから~25歳差の物語
21時ちょっと前に花火は終わってしまった。


あと3分で閉園だ。


「…帰るか」


先生が言ったその時だった。


ぐううう~


「…」


先生は必死に笑いをこらえている。


私の顔は真っ赤になり(多分)、熱を発する。


我が腹よ、花火を見ていただけなのにどうして鳴るんだー!


自分のお腹に問いかけても、返事が返ってこないのはわかっているけれど。


「お前、もうお腹すいたのかよ」


そう言う先生の広い肩が小刻みに震えている。


「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」


先生に笑われたおかげで素晴らしい花火の余韻も台無しだ。


「多分あれですよ、サーモンのお寿司の分が足りなかったんですよ」


「でも俺のトンカツ取ったんだからプラマイゼロだろう」


「あ、そっか」


「よし、俺の勝ちだ」


「大人気ないなぁ…(ボソッ)」


仕方なく私達は近くの居酒屋に行った。


「なぁ」


先生は、名前がやたらに難しかった(気がする)エメラルド色のカクテルが入ったグラスを片手に言った。


心なしか、頬がほんのり赤くなっている気がする。


「はい?」


「睡蓮さんは元気か?」


「相変わらずですよ。あくまでも電話越しの判断ですが」


「そうか」


穏やかに笑う先生を見て、なんだか夢から現実に戻された気がした。


「先生、まだ母のこと…」


割り切ったはずだった。


先生が好きなのは母でもいいからって。


なのにこの感情は、それを悲しんでいる。


「ああ、ごめん」


私の異変に気付いた先生の表情が申し訳なさそうに沈む。


「いえ…」


気まずい沈黙が訪れて私はとりあえずカシスオレンジを胃に流し込んだ。
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