夢でいいから~25歳差の物語
思い悩む私の元に、先生からの電話が来たのは、それからさらに数時間経った頃だった。


「もしもし」


《もしもし。俺だ》


「先生ですか」


《ああ。さっきはごめん。急に帰ろうだなんて言って》


「いえ…」


《それで、睡蓮さんのことだが…》


「母、ですか」


なんとなく胸がちくちくする。


《睡蓮さん、だいぶ取り乱していたよな》


「はい。あんな母、見たことありませんでした」


《水橋、俺どうすればいいかな》


「え?」


《俺、ほんの数年間だったけどあの人の夫だったからな》


ああ。


忘れていた。


互いに想っていたのはわかっていたけど、それは元は夫婦だったから。


同じ屋根の下で、互いへの愛を抱えて生きていた時間があったから余計なんだ。


「先生。私達、別れた方がいいんでしょうか?この関係を終わりにした方がいいんでしょうか?」


《水橋…》


「そうですよ。別れて、先生はまた母のところに行ってあげて下さいよ。きっとそれが一番なんです」


そうすれば母は悲しまなくて済む。


《お前、それ本気で言ってるのか?》


「はい。本気です」


《…》


嘘だよ。


先生と別れたくなんかない。


本当はずっと一緒にいたい。


なのに、まるで何かに操られているみたいに口が勝手に動いてしまう。
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