夢でいいから~25歳差の物語
しかし、そんな憂鬱も配られたプリントを見て少し和らいだ。


なんでも、冬休みに生物の課外があるらしい。


冬休み中はずっと会えないと思っていた私は思わずガッツポーズした。


ダメ元だけど自分をアピールするチャンスの到来だ。


絶対に無駄にしない。


そう思った時、誰かのケータイがけたたましく鳴った。


どうやら洋楽らしく、歌詞を聞き取ろうとしてもまったく意味がわからない。


しかし、私はその異国の音楽にしばらく聞き入っていた。


「歌が聞こえる」というより「歌ってくれている」気がしたのだ。


まるで私を後押しするかのように。


もう一度決意して、課外の予定表が印刷されたわら半紙を丁寧にクリアファイルにしまった。


それから時は駆け足で過ぎていった。


何をそんなに急いでいるのかと問いかけたくなるくらいに、私の心を置き去りにして…。


そして何の進展もないまま迎えた12月24日。


この日はクリスマスイブでもあり、課外初日でもある。


私は朝の6時に目覚め、まずジャケットやネクタイや紺色のセーターやスカートを身につけた。


髪をポニーテールに結び、食パン1枚とホットコーヒーの朝食を済ませてから意気揚々と学校に向かう。


いつもは眠さが襲ってくる学校までの道のりも、今日はすっきりした気分で歩くことが出来た。


自然と足が踊り、走り出す。


静まり返った早朝の学校の下駄箱に到着し、予定表をカバンから取り出した。


課外開始時間まであと1時間。


「ええと…8時50分から10時まで古典。場所は学習館。10時10分から11時20分まで現代文。場所は会議室ね。11時30分から12時40分までが生物。場所は学習館」


私は再びローファーを履き、学習館に向かう。


学習館、別名、蛍雪館は生徒の学習意欲を高めるために作られたらしい。


蛍雪館とは故事成語の「蛍雪の功」にちなんで名付けられたそうだ。


そんなことを考えながら中に入ると、人の気配はまったくない。


沈黙だけがそこに存在していた。


私は軽い気持ちで階段をのぼり、何気なくドアを開けた。


「わっ!」
< 9 / 369 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop