夢でいいから~25歳差の物語
そう言って静かに涙を流す私を、母は困った顔で見ていた。
泣いたってどうにもならないことはわかっている。
だけど他にどうすればいいかわからなかった。
私を守ってくれた先生を守れなかったのが悔しくて、やりきれない気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫、皐示さんなら」
ふいに母がぽつりと呟いた。
それはまるで蚊の鳴くような声だったが、悲しい沈黙を引き裂くのには十分だった。
「大丈夫よ。あの人は過去にどんなに苦しくてつらい思いをしてきても、ここまで生きてきた。逆境にも堂々と立ち向かう人だもの」
それを聞いて、私は母が先生の言っていた「過去」を知っているのかと思った。
「母さんは、先生の過去を知ってるの?」
「あの人は…」
母が言いかけた時だった。
パッと赤いランプが消えたと思うと1人の医師(せんせい)が出てきた。
「医師、私の夫は…?」
「頭を打っていますが、命に別状はないようです。しかし、いまだに意識が戻っていません」
「そんな!」
「今は安静にさせることが第一です」
それだけ言って彼は去ってしまった。
続いてガラガラという音と複数の医師と共に先生が運ばれてくる。
その顔色は青白くもなく、至って普通だった。
それで少しほっとしたが、先生が目を覚まさないからには不安は完全に消えたわけでもなく、複雑な気持ちで病室へついて行った。
泣いたってどうにもならないことはわかっている。
だけど他にどうすればいいかわからなかった。
私を守ってくれた先生を守れなかったのが悔しくて、やりきれない気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫、皐示さんなら」
ふいに母がぽつりと呟いた。
それはまるで蚊の鳴くような声だったが、悲しい沈黙を引き裂くのには十分だった。
「大丈夫よ。あの人は過去にどんなに苦しくてつらい思いをしてきても、ここまで生きてきた。逆境にも堂々と立ち向かう人だもの」
それを聞いて、私は母が先生の言っていた「過去」を知っているのかと思った。
「母さんは、先生の過去を知ってるの?」
「あの人は…」
母が言いかけた時だった。
パッと赤いランプが消えたと思うと1人の医師(せんせい)が出てきた。
「医師、私の夫は…?」
「頭を打っていますが、命に別状はないようです。しかし、いまだに意識が戻っていません」
「そんな!」
「今は安静にさせることが第一です」
それだけ言って彼は去ってしまった。
続いてガラガラという音と複数の医師と共に先生が運ばれてくる。
その顔色は青白くもなく、至って普通だった。
それで少しほっとしたが、先生が目を覚まさないからには不安は完全に消えたわけでもなく、複雑な気持ちで病室へついて行った。