幕末オオカミ
つまり、結局は幕府側の人間ってことで……。
将軍に仕えるはずの大奥にいたあたしが、逃げてきたと知ったら……。
こいつは、手柄のために喜んであたしを城に差し出すだろう。
そうなれば、命は無い。
大奥から逃げた者は死罪と決まっている。
それは避けたい。
だってせっかく、逃げてきたんだから。
「そんな言葉を信用できると思うのか。
来い」
「えっ、ちょっと……」
大男の沖田総司は、あたしをひょいと持ち上げた。
まるで、米俵のように。
途端に視線が高くなり、景色が変わる。
「お、おいっ!!離せ!!」
「そうはいかない。局長に報告する」
沖田は、あたしを軽々と抱えたまま、歩きだした。
なんなんだ、この怪力男!!
くそおおおお、せっかくここまで逃げてきたってのに!!
どんどんと背中をなぐっても、沖田はびくともしなかった。
その背中は無駄のない筋肉におおわれて、太陽と汗のにおいがした。
これが、あたしと沖田総司の……最悪の、出会いだった。