幕末オオカミ
あまりの発言に驚いて声も出ないあたしの横で、張本人が怒鳴る。
「斉藤てめぇ、適当なことを言うな!!
しょうがねぇだろっ。狼化すると、女なら誰でも可愛く見え……っ」
沖田はそこで、口をつぐんだ。
「女なら、誰でも……?」
表情が固まっていくのが、自分でもわかる。
横目でにらんだ沖田は、大きな手で顔を隠し、うなだれていた。
「総司、思春期からのそのクセ、まだ治らないか」
「むしろ強烈になってんじゃねぇか?
年頃のわりに、遊んでねぇからな。
その反動だろ」
局長と副長が、沖田を哀れむように見つめる。
「クセ、って?」
あたしが聞くと、沖田の代わりに副長が答えた。
「だから、コイツは、月夜に血を見ると狼化するだろ?
すると獣の本能が目覚めて、やたら子孫を残そうとするんだ」
はぁ!?子孫!?
「やめてください、土方さん……」
「耳や尻尾はしばらくすれば消えるからな。
たまたま通りかかった娘に襲いかかって、江戸で大変な騒ぎに……」