幕末オオカミ
「おお……なにも、逆さ吊りにしなくても……」
そう言ったのは、四角い顔の男だった。
貫禄があり、ちゃんとした髷(まげ)を結っている。
「いや、よくやった、総司」
もう一人の男が、顔色一つ変えずに言った。
「忍は口が堅いからな。これくらいしねえとな」
お、鬼ー!!
その男は、沖田ほど背は高くはないけど、二重まぶたの美丈夫だった。
唇は薄く、酷薄そうな印象を受ける。
「どうします、土方さん。名前は楓。
それしか今のところわかりません」
「そうさなあ……
どうやって吐かせようか……
足の甲から五寸釘を打ち込んで、ろうそくを立ててやろうか……」
な、何でそんなに楽しそうなんだい。
土方と呼ばれた男は、にやりと口の片端だけ上げて、笑った。
「ちょ、ちょっと待ってよ。
あたしは本当の事を言ったんだ。
そいつが信じてくれないだけなんだってばー」
「?総司、こいつ何て言ってたんだ?」
「……忍の一族から抜け、路頭に迷ったそうです」