幕末オオカミ
とにかく、と斉藤先生はあたしに指導を始めた。
藤堂先生は、それを座って見ている。
「腹で息をしろ。
鼻から吸って、口から出す。
まずはそこから」
陰陽道の基本は、呼吸法らしい。
斉藤先生はあたしの腹を抑え、ちゃんと呼吸が出来ているか確認する。
「うむ、大丈夫だ。
あとは……しばらくは、これを使え」
そう言って、斉藤先生は、着物から御札のようなものを取り出した。
「護符だ。身に着けておけ。
持っていれば、霊力が上がる」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、俺はこれで」
「えっ?」
斉藤先生は、呼吸法と御札だけをあたしに授け、あっさり蔵をあとにしようとする。
あたしは思わず、その袖をつかんでしまった。
「あ、あの、これだけですか?」
「ん?」
「もっと、あの、呪文とか、即効性のある攻撃とか……」
「そんなもの、一朝一夕でできるわけないだろう。
まずは霊力を高めること。
ある程度の霊力がなければ、何も身につかない」
斉藤先生の説明は、すごく無責任に聞こえた。
反論しようとしたあたしに、さらに厳しい言葉がぶつけられる。