幕末オオカミ


「どれにしよかな。楓くん、希望は?」



あたしの変装を任された山崎監察は、どこかウキウキしているように見えた。


床一面に広げられた女物の着物で、部屋は足の踏み場もない。



「んー、地味なのでいいですよー」


「そうやな、お手伝い役やし……」



山崎監察はあたしの顔によく映る、からし色の着物を選んだ。



「着付けは?」


「すみません……補助をお願いしていいですか?」


実は大奥にいた頃は、侍女が全部やってくれたんで。


それは、言えないけれども。


ばっと袴と着物を脱ぎ、襦袢一枚になったあたしを見て、山崎監察は「うわっ」とのけぞった。



「なんですか?」


「いや……まさかこうあっさり脱がれるとは」


「だって、着替えるんですよね?」


「あぁ、そうやけど……
普通の女子なら恥ずかしがるんちゃう?
なんだか君は、お姫様みたいやな」



ぎくっ。


そうか、あたし慣れてたけど、普通は他人に襦袢なんか見せないよな。



「うん、仕事だとわりきってくれると、こちらもやりやすいわ」



あたしは何も言ってないのに、山崎監察はそう解釈して笑ってくれた。


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