幕末オオカミ
振り返る。
そこにいたのは、不機嫌な大男だった。
「何?」
あたしも思わずぶっきらぼうに返してしまう。
「ちょっと」
沖田はあたしとともに蔵に入り、すぐに鍵をかけた。
そうね、こんな姿で屯所をウロウロしてたらダメだよね。
持っていた着物を下ろすと、沖田がボソボソと話し出した。
「お前、平助と何があった?」
「は?」
「名前で呼び合うなんて、相当親しくなったのか」
何、その質問?
まぁいいか……。
「本人が、そう呼べってうるさいんだよ。
あたしが孤立しないように、気をつかってくれてんだ。
誰かさんと違って、優しいからね」
これは、本当の話。
平助くんは非番だと、よくここに遊びに来てくれる。
仕事に関係ない笑い話をして、あたしを笑わせてくれた。
「誰かって……」
沖田は自分のことを言われているのにきづいたらしい。
眉間にシワをよせたその顔は、鬼そのものだった。