幕末オオカミ
思えば、可哀想な話だ。
突然来た浪士達に母屋をとられ、街の人たちはそれを嫌って近づかなくなった。
子供達も、つらい思いをしてるんだろう。
「じゃあ、ねーちゃんが鬼やるよっ?」
「わーい、かくれろー」
「かくれろぉ~」
あたしは姉さんかぶりのまま、柱に顔をつけた。
二人が走り回る足音を聞きながら、数を数えようとした、その時……
「なんや、騒がしいなぁ。
いつのまに子供が一人増えたん?」
後から、冷たく凍った女の声がした。
振り返ると、奥の間にだらしなく座ったままの女が見える。
芹沢の情婦、お梅さんだ。
厚い唇の美人ではあるが、あたしはこの人が好きじゃない。
初めて見た時から、彼女の目はどろんと半分眠っているようだった。
完全に、下働きのあたしをバカにしている目だ。
あんたは知らないでしょうけど、あたしは上様の側室だったんだよ?
言っちゃえば、近藤局長よりよっぽど身分は高かったんだからね!