幕末オオカミ


「近藤さん……」


ぼんやりした頭の片隅で、土方の声がする。


「降ろしてやれ、総司」


他者にどんな反論もさせない、圧倒的な力。


それが、その声にはあった。


沖田は何も言わずあたしの前に立ち、水がめをどけた。


そして……


「やっ!」


刀の柄に手をかけたと思うと、見えないほどの速さで、あたしを縛っていた縄を切り裂いた。


そして、落下するあたしの身体を、刀を持っていない腕一本で、受け止めた。


「なんで……」


まだクラクラする頭で、近藤に問う。


すると近藤は、あたしの前にひざまづき、手ぬぐいを差し出してくれた。


「なかなか気の強い娘さんだ」


その顔は、少しの笑みをたたえていた。



「……簡単に口が割れると思ったがな。
きみは、信用できる忍らしい」


はて……。


この人は、何を言ってるんだろう。







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