幕末オオカミ
「トシ、どうだろう。
監察方(カンサツガタ)にこの子を入れてやっては」
「はあ?何言ってんだよ、近藤さん。
素性もわからないくの一を、隊士にしろって言うのかい」
トシ、とは土方の名前らしい。
心の底から嫌そうな顔で、土方は近藤をにらんだ。
「だって、さ。
うちの副長は頭が固くていけねえ。
なあ、娘さん。
正直に話してくれないか?」
その瞳には、同情よりも、もっと温かいものがあった。
少し、父さんに似ている……。
「……売られた……」
「ん?」
「あたしは、岡崎一族の里から……江戸に、売られたんです」
信じてもらうためにはしょうがない。
あたしは仕方なく、正直に事情を説明することにした。
「売られた?」
「両親が仕事先で、コレラで死んで……それを良いことに、叔父と叔母に売られた」
これは、本当のこと。
両親は、すでに他界した。
「……どこぞで流行したとは聞いていたが……」
コレラは、コロリと呼ぶ人もいる。
おそろしい、伝染病だった。